熱による毛髪の変化と癒着

アイロンストレート施術では、アイロン熱を用いてクセ毛の形状で曲がっていたキューティクルを直毛に沿うように整えながらツヤと形状安定を与えます。

1剤の軟化を均等に行うことは重要ですが、現実的には内部コルテックスにダメージによる吸水ムラが起こり、2剤の浸透時に吸水ムラによる変形と再結合が同時に起こります。

目次
野村学長

アイロンの目的は、その内部変形をキューティクルケラチンの熱硬化で外部から抑え込み、全体の変形を最小限に留め、2剤で髪のクセが戻らなくすることである。

野村学長

もう一つは、ケラチンのガラス転移温度を利用して、コルテックスやキューティクルの形を戻らないように変形させることにあるんだ。

フラスコ君

例えば、板ガムに例えた場合、ある温度まで温めると柔らかくなり、変形させた後でまた温度を下げると固まって元の形に戻らなくなりますよね。

野村学長

その通り。この形を可逆的に変えることができる温度のことをガラス転移温度といい、物質によってその温度は異なるんだ。

ケラチンたんぱく質の場合、ドライの状態で110℃~150℃ぐらいが可逆的なガラス転移温度であり、150℃を超えると黄色く変性して不可逆的な炭化が始まります。

このガラス転移温度で髪を柔らかくしながら、髪をまっすぐにするのがアイロンの目的です。

しかし、わずかな時間のアイロン操作でガラス転移温度に上げることは非常に困難であり、逆にアイロンでプレスすると150℃を簡単に超えて炭化させてしまう危険性があり、アイロンの温度管理は非常に難しいと言えます。


衣服のアイロンでも分かるように、完全ドライしたウールのスカートのシワをアイロンでのばす時に必ず霧吹きや蒸気で少し濡らしておきます。

羊毛の繊維の内部に残っている水を利用して105℃から110℃ぐらいの圧縮蒸気をアイロンで毛の内部に発生させ、その力を借りてガラス転移温度を下げる方法ですが、髪が圧力容器のような密閉された構造であることを利用します。

野村学長

髪のアイロン施術も同様で、アイロン前の乾燥を8割ドライ(髪の表面が乾き、内部に水感がある状態)にすることで、圧縮蒸気を髪の内部に発生させてガラス転移温度を下げることで、さらに安定したストレートの状態を作り出すことができるぞ。

また、105℃以上の圧縮蒸気はSS/SH交換反応も助長することが知られており、軟化不足であってもコルテックスの歪をとりながら髪をのばしやすくします。

圧縮蒸気を髪の中で作りやすくするためには、アイロン前に髪が水を含んだ状態で70℃~80℃ぐらいに温度を上げることが必要で、例えばアイロン余熱を8割ドライした髪に沿わせて髪の温度を上げておいてからアイロンを握るのも内部で圧縮蒸気を発生させる1つの方法です。

アイロン施術による髪のチリつきは、ダメージにより過剰に膨潤して元の状態に戻れない壊れた髪の部分が急に熱で歪に収縮することで起こります。

このような異常な髪は高温のアイロン熱に耐えられないために、80℃ぐらいの熱でゆっくり収縮させることを考えますが、アイロン施術前にポリフェノールを用いて根元と同じ太さまで引きしめておくことでチリつきはかなり予防できます。

野村学長

アイロン施術をする髪の内部のCMCが不足している場合は、アイロンの高熱によりケラチンであるコルテックス同士が癒着してしまうから注意が必要だぞ!

フラスコ君

癒着が一度起こってしまうと元には戻らなくなるだけでなく、パーマやカラーが行えなくなり、水の呼吸もできなくなるため、パサついた硬い髪質に変わってしまいます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次